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『春はあけぼの…』とはよく言ったもので、
今日も実に眠たくなる陽気だった。
俺は窓辺でウトウトしていた。
こちらの世界は本当に平和で、平和すぎで退屈な時もある。
そんな時は決まって頭に浮かぶのは…
『悟飯さん…、どうしてるかな?』
ポロリとつぶやく。
『呼びましたか?』
耳の奥に心地よく響く幻のように聞こえた、愛しい人の声…
って…
『うっわっ…!!!?』
真後ろに悟飯さんが立っていた。しかも気まで消して…
『気を消して驚かそうとしたのに…、トランクスさんって超能力者みたいですねv』
可愛く色づいているピンク色の唇を微笑させる。
黒目がちの丸い瞳に自分が写っている。
サラサラの黒髪が春風に弄ばれている。
体の線を強調してないはずの可愛いチャイナ服が、妙に俗っぽく見える。
俺の目と耳と頭は完全におかしい。
悟飯さんのことが、変に見える。
変に…、可愛く…、いやらしく…、愛しく見える、声もたまらなくなるほど甘く聞こえる。
『分かってるのに、驚いたフリして…、優しいんですね、トランクスさんって。』
クスクス笑いながら俺のすぐ隣に座った。
『…ははっ……、え〜と…、今日はどんな用で?』
あまりそばに寄らないで欲しい…。
俺の心臓の鼓動とか、顔が赤く火照っているのとか、変な汗かいているのとか…、気付かれたくない。
なぜなら、かなわない思いだって知られてるのに、こんなに焦っているところを見られたら、
きっとこの人は本気で心配するに決まっている。
その心配されるのが、俺を一番悩ませるというのに…。
『ブルマさんがね、「桜が満開だから宴会しよう」って突然電話してきたんです。』
そういった母さんのムリな招集に、何の疑問も持たずに来てくれる悟飯さん…、可愛過ぎます…。
『そうなんですか…、俺には何も言ってくれないのに…、母さんならチビをつれて買い物に行ってしまいましたよ?』
俺は何とか平静を装えているらしい。
『買い物…?そうですか…、じゃあトランクスさん、ボク達だけで先に行ってましょうよ。お庭の桜、とってもキレイですよね.!』
ワクワクって…、悟飯さんの周りに見えてます。
はしゃぐ悟飯さん…、可愛いです。
俺は母さんとチビと、『お庭の桜』に感謝した。
ドアを開けた途端、甘い春の匂いがした。
暖かな日差しはもう真上に差し掛かっている。
悟飯さんが嬉しそうにレジャーシートを広げる。
俺は台所から適当にくすねて来たものをその上に置いた。
『そう言えばピッコロさんは?』
白々しく聞いてみる。
ずっと…、そう、悟飯さんが目の前に登場してからずっと気になっていた。
痛いくらいに刺さってくる視線が今日は無い。
悟飯さんはその言葉を聞くと、下を見た。
そして俺が持ってきた缶ジュースを開けて一口飲んだ。
『……今日は来ません。』
喧嘩したな…、きっとこの場に来ることを拒んだピッコロさんと衝突したのだろう。
俺ならこんな風に放って置かないのに…
絶対に何処へだって…、いや、この人が望むことなら、何だってするのに…。
『すみません…、今の聞かなかったことにします。』
苦笑いを浮かべて菓子の袋を開ける。
だってそうじゃないか?喧嘩してるのをいいことに、悟飯さんにつけこむなんて出来ないし、したくない。
いや、心の中じゃ、きっとガッツポーズとってる俺がいる。
少なくとも、今この瞬間は俺が悟飯さんを独り占めしていることは、夢でも幻でもない。
大体俺は遠慮しすぎだ、普段から。
と、いうより『格好つけ過ぎ』なんだろう。
本当に傷つくのは嫌なんだ。決定打で判決を下されるのを避けているんだ。
これじゃあ『恋する乙女』だな…。
色々と考え込んでいる俺を尻目に、悟飯さんはやけ食いなのか、
菓子を食べ、サンドイッチをつまみ、ジュースもがぶ飲みだ。
『…トランクスさんは…』
悟飯さんが俺に話し掛けているのに気付いて、ふと我に返った、
『…っ!はいっ!?なんでしょう?』
急いで笑顔をつくって悟飯さんを見た。
『トランクスさんはファーストキスっていつですか?』
頬を赤らめながら、うっとりとした瞳で悟飯さんは俺を見る。
『っっ!!!ええ??!!キッ…、キスッ…ですかっ!??』
どこからの話の流れかは分からないけど、そういう話になっていたらしい。
俺は返答に困った…
本当のことを言っていいものか?
俺のファーストキスは…
『かっ…母さんにムリヤリですねっ…』
よく使われる返答。
『ずるいっ!!!』
やはり身内系言い訳はだめか…。
『トランクスさんのほっぺた美味しそうなのにっ!ブルマさんが独り占めなんて!!!』
『へ?…???』
明らかにおかしい言葉に驚いて悟飯さんを見た瞬間…
俺の頬に柔らかくて暖かな感触。
それと同時に耳が小さな「チュッ…」という音をとらえた。
俺は固まった。
一瞬じゃなく、視界も思考回路も息も…
心臓だけがドッドッドッドと、鳴り響いていた。
頬から悟飯さんの唇が離れるその瞬間に、金縛りが解除された。
まず、つばをゴクリと飲んだ。
そして瞬きを何回かした。
それから缶ジュース開けてを一気に飲み干した。
ん????
ジュース???
ジュースじゃない!!!!!
これは明らかにアルコールが入っているっ!!!
『…ってことは…』
俺は悟飯さんを見た。
ニコニコ笑っている。
でも口元が『にへら』となってる。
顔も異常に赤い。
目も『とろん』としている。
『ごっ…悟飯さんっ!!!酔っ払っちゃってますね!!!』
次の瞬間、悟飯さんはニコニコしたまま後ろにひっくり返った。
『わっ……!!!悟飯さんっ!!!!しっかりしてくださいっ!!!!』
寝入っている悟飯さん…、可愛いっ!!可愛過ぎますっ…!!
鼻血が出そうです。写真撮りたいです。
母さんが帰ってくるまで理性を保つのが大変だった。
俺は自分を抑えつつ、悟飯さんを自室のベッドに運び、(ソファーじゃあんまりだと思って。)
タオルをぬらして額に乗せて…
母さんは俺の部屋で悟飯さんが寝ているのを見て、変に勘違いしそうになったけど…
眠っている、しかも心神喪失中の相手に対して手を出すとかは、絶対にしない。
そんな情けない男じゃない。
大体、そんなことしたら俺を育ててくれた悟飯さん(未来の)に申し訳がないから…
悟飯さんは結局迎えにきたピッコロさんに抱かれて帰っていった。
帰る前に、ピッコロさんは俺にひと言
『悟飯が世話になったな…』
…いえいえ、世話と言うほどのことしてませんから。
と、返したけど…。
俺にとってはこちらの世界に来てから、これほど幸せだった日はなかった。
あなたのおかげです。
あなたが悟飯さんをたまに引き離すから…
そうした隙…、俺は利用します。
今晩は眠れそうもありません。
頬にあの柔らかい感触が残っているから。
いや、深い意味で考えてほしくは無いな。
END