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今日は珍しく悟飯さんが遊びに来た。
いつもは母さんに呼びつけられて来るのに。
『今日は、トランクスさん』
チャイムに応じた俺の目の前に悟飯さんが・・・
一瞬自分の目を疑った。
俺の目には悟飯さんがおかしく映る。
悟飯さんが視線の中にいると、他の風景はボヤけて見えてしまう。
声もエコーがかかっているかのように、耳の奥で響く。
そんな風に憧れている悟飯さんだから、
「今日は悟飯さんに会えるぞ!!」と、気合を入れないと焦ってしまう。
だから一瞬夢だと思った。
今朝見た夢の続きかと思った。
『どっ・・・どうしたんですか?母さんに何か用事でも??』
悟飯さんの笑顔を直視できないまま(ビビって)、俺もつられてヘラヘラ笑った。
と、いうより、頬の嬉しがる筋肉に負けてニヤケた・・・という感じだ。
『いえ・・・その、今日はトランクスさんに用が・・・』
悟飯さんは何故か顔を赤らめた。
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいっ!!??
めちゃくちゃ可愛いですけど、俺、悟飯さんをそんな表情にさせるようなセリフ言ってないですって!
『・・・お願いがあるんです・・・、トランクスさんにしか・・・できないんです・・・』
そそそそそそそそそそそそそっ!!そんなうつむかないで下さい!!
お願いって、お願いって!!!お願いも何も、断れないの、断る事が出来ないのを知ってて、悟飯さん!!!
でも、俺は平静を装って、
『なんですか?俺の出来る事なら何でも!!』
ニッコリと微笑んだ。
悟飯さんは、俺の返事を聞いてますます戸惑いの表情を浮かべた。
そんなに大変なお願いなのだろうか??
そんな、俺、悟飯さんの為だったらスキンヘットにだってなりますよ!!
心の中で大海原に向かって叫んだ。
『その・・・ここじゃなんですから、ちょっと出ません?』
悟飯さんは俺の手のひらをぎゅっと握った。
確かにここ(カプコー)では、どこに耳(盗聴器)や目(監視カメラ)があるかわからないから・・・
『わかりました。ちょっと待っててくださいね。』
デートじゃんっ!!デートじゃんかっ!!!?これってデートだよな!!!
自分の部屋に財布を取りに行きつつ、ガッツポーズをしてしまった。
悟飯さんと俺は近くのレストランに入った。
サイヤ人(悟飯さん)の心を許させるには、腹を満たしてあげるのが一番だ。
『なんでも注文していいですよ。俺のおごりです。』
俺は悟飯さんの向かいの席に座って、ちょっと大人っぽくひじをついて足を組んだ。
悟飯さんは、かしこまって座り、膝に手を乗せて、上目遣いで俺を見上げた。
なんて可愛いんだ!!!
大分免疫ができたせいか、それでも動揺しない自分を少し誉めた。
悟飯さんは遠慮して(そこがまた可愛い)ケーキセットをオーダーした(これもまた可愛い)。
注文したものが来るまでに時間が空いた。
でも悟飯さんは『お願い』の本題に入らない。
まあ、こうして一緒にいるだけで俺は十分に幸せだからいいのだけれど・・・
ウエイターがチーズケーキと紅茶、俺の頼んだコーヒーを運んできた。
置かれたケーキの向こう側にいる悟飯さんは、ケーキがかすむくらいに甘そうだった。
揺れる紅茶とコーヒーの湯気を眺めつつ、悟飯さんは覚悟を決めたように、口を開いた。
『あの・・・っ・・・、実は、ボクの代わりに買って欲しいものがあるんです。』
突飛もない言葉に、少し考えがまとまらなかった。
『買い物?・・・ですか?代わりに俺が?』
察しがつかない。
『その・・・それは自分だと恐らく買うことは困難な物で・・・』
なろほど・・・、って・・・、それって一体なんなんだ?
『いいですけど・・・、何を買うんですか?』
悟飯さんは俺の問いを聞いて、たじろんだ。
『・・・ええと・・・、その・・・』
モジモジと唇を噛む。
そんなに恥ずかしいものなのか?
恥らう悟飯さんは可愛いけど・・・なんなのだろう?
おもむろに悟飯さんは立ち上がって、俺の横の席に座った。
近づいてくる顔にドキドキした。
そして耳元で・・・
それだけで息の仕方を忘れてしまうくらい動揺した。
ボソっと言ったのは・・・
その言葉を聞いて、俺は真面目に鼻血を噴いた。
急いで手で鼻を抑える。
『あのっ・・・あのっ!!ダメだったらいいんですっ!!ごめんなさいっ!!ムリですよねっ・・・』
俺に、俺にそんな事を・・・悟飯さん・・・、アナタは小悪魔ですっ!!!
だけど、だけど他のヤツラ(ヤツラ扱い)にそれを相談しなかったのが、また嬉しかったり・・・
きっと考えに考え抜いて、俺という選択肢を選んだに違いない。
けれども、それが自分の一番悔しくてもどかしい事であることには変わらない。
『わっ・・・忘れてください!!・・・本当にごめんなさい・・・ボク、本当にどうかしてます・・・』
悟飯さんは神様にお願いするみたいに、手を組んで何度もペコペコと頭を下げた。
『・・・いえっ・・・俺の方こそ・・取り乱して・・・』
俺はハンカチで鼻と手の血を拭き取った。
幸い気合で何とか止ったようだ。
『・・・クリスマスプレゼントですか?』
それを聞いて、悟飯さんは俺を一瞬見て、また真っ赤になった。
そして頷いた。
スッと、頭の熱いモヤが消えた。
俺はため息を一つしてクスリと笑った。
『いいですよ。買ってきてあげますよ。』
レストランを出ると、俺と悟飯さんは、ドラックストアに行った。
俺は目的の物を買い、それを店員に包んでもらった。
包装を頼むと、店員はかなり驚いた。
だけど俺が照れ笑いを浮かべると、同じような照れ笑いを浮かべながら応じてくれた。
無事に指令を果たし、近くの公園で待たせていた悟飯さんの元へ。
悟飯さんはそのプレゼントをホッとしたような顔で受け取った。
そんな顔されると・・・たまらない・・・
だから・・・
『ついでに試します?俺で?』
『・・・っ!!!』
悟飯さんはビックリした表情で俺を見上げた。
俺が真剣な表情をしていたから、悟飯さんの顔か一気に赤くなった。
・・・なんで何も言わないの?
・・・・・・・なんで・・・怒らない?
・・・なんで・・・・・・・・・・・・・・
『冗談ですよっ!!』
俺からくつがえした。
真面目な顔から、飛びっきり爽やかに笑って見せた。
『喜んでくれるといいですね。』
心にも無い事を発する俺。
心はぐちゃぐちゃで・・・もう、走って逃げたい。
目の前にいるのに・・・
俺の手の届くところにいるのに・・・
触れられない。
触れられないんだ。
自分に一生懸命に言い聞かせて、飲み込んで・・・
『じゃあ、俺、帰ります。』
その表情のまま、振り返って歩き出す。
手を振り忘れたのは、動揺していたから。
向いた方向が自分のうちとは全然違うのも、動揺していたから・・・
どうしよう・・・俺・・・、それでも悟飯さんが・・・好きでたまらない。
好きで、好きで・・・好きなんだ。
『・・・待ってくださいっ!!』
声で心臓が止るかと思った。
悟飯さんが俺の腕をつかんでいた。
だめだ・・・
これ以上何かあったら・・・俺はもう自分が何をするか・・・言うか・・・わからない。
『・・・あのっ・・・これ、品代です。本当にありがとうございました。』
俺は悟飯さんの方をやっとの思いで見た。
悟飯さんの表情を見て、俺の心臓が再び静かに脈を打ち始めた。
『・・・トランクスさん・・・』
困った表情で、赤い顔で・・・、涙を浮かべていた。
『ごめんなさいっ・・・本当にごめんなさいっ・・・、トランクスさんの気持ちも考えないで・・・』
悟飯さんは俺が悟飯さんのことを好きなのは知っている。
だから今は罪悪感で一杯なのだろう。
と、いうよりもきっと依頼を言うのにも、最大の罪悪感でつぶされそうだったに違いない。
だけど、それでもそのことを切り出したのは、俺を心から信頼しているからというのと・・・
ピッコロさんを本当に、一番思っているから・・・
それ、俺、理解してます。
だから・・・あなたが好きなんです。
『大丈夫ですよ。本当に・・・』
俺は悟飯さんの顔を真っ直ぐに見て、ニッコリと笑った。
打たれ強いな・・・俺。
悟飯さんはそんな俺を見て、切なそうな表情をした。
同情されてるんだろうな・・・
そんな顔も可愛いけど・・・
もう一度大丈夫・・・と言おうとした。大丈夫だと。
でも、その言葉は出なかった。
代わりに・・・
俺の手は、体は・・・
悟飯さんを抱き寄せていた。
暖かい温もりと共にシャンプーだろうか?
すごく安心するたまらない匂いがした。
それは悟飯さんの匂い・・・
優しくて、懐かしくて、愛しくて・・・
もう少し力をこめようとした時だった。
悟飯さんの腕が俺の背中に回された。
悟飯さんっ!!!
俺は自分を抑えられないと思った。
悟飯さんっ!!!!!!
奥歯をギリっと噛み締めた。
悟飯さんっっ・・・・・・・・!!!
『ゴメンっ・・・』
悟飯さんが顔を上げたと同じくらいに・・・
俺の唇が悟飯さんの唇に触れた。
ガチンっ・・・・
少し前歯が当たった。
そんなことはどうでもいい。
悟飯さんの唇と自分の唇が触れている事が・・・
事実なのなら・・・
悟飯さん・・・・・・・・・・・
ただ、触れただけ・・・
俺の勇気はそこまでだった。
大人しく唇を離した。
『・・・これでチャラです。』
悟飯さんの体も開放する。
俺が笑うと、悟飯さんはすごくムッとした表情をした。
『・・・チャラ・・・じゃないですよっ!!!』
うろたえて真っ赤になっている。
俺はこの表情を見れただけで十分だ。
『クリスマスプレゼント、これでいいですから。』
クスクスと笑う。
だって、本当に嬉しかった。
『・・・チャラ・・・じゃないですってばっ!!!』
悟飯さんが大きな声を出した。
俺の腕をつかんで、怒った顔で睨んだ。
怒らせたかな?でも、悟飯さんが悪いんですから・・・
口からそう出る前に、悟飯さんが・・・
かかとを上げて、背伸びして・・・
今度は悟飯さんから唇に触れた。
ほんの少し。
ちょんと・・・
『これはおつりです・・・』
まだ怒ったままの表情が、余計に愛しさを増幅させた。
そして悟飯さんはきびすを返して走り出した。
公園の出口辺りで振り返った。
『・・・本当にありがとうございますっ』
大きな声でお礼を言って、飛び上がってあっという間に消えてしまった。
公園にぽつんと残された俺。
その後、どうやって帰って来たか覚えていない。
気がつくと自分の部屋のベッドにいた。
しばらく何も手がつかないだろう。
悟飯さんがアレをピッコロさんに渡たす・・・
そしてする行為は決まっている・・・
それは俺が代わりに買ったもので・・・
・・・・・・
思えば思うほど・・・悲しいやら、苦しいやら、幸せやら・・・
こんなにかき乱して・・・悟飯さんは本当に・・・
それでも、あのキスは俺からじゃなく悟飯さんからで・・・
同情かもしれない、罪悪感がそうさせたのかもしれない。
だけど・・・
それでも嬉しい俺が悲しい。
END