有理さまより



地上からずっと高い場所にある、選ばれた者しか入る事を許されない神の聖域。

本来ならば魔族である自分が入るべき場所ではない。

魔族……。いや、元魔族であったと言うべきか。

まさか自分が神と同化し、元の一人として生きる事などないと思っていた。








生まれた時から、俺は復讐だけを糧として生きてきた。

父を殺した孫 悟空を憎み、殺し、世界を征服する事。

そう、その為に俺が生み出されたのだ。

それ以外の感情を持つ事は許されぬのだと。


そして自分の生まれた日が来ると、頭の中に聞こえてくる声。



―――息子よ。何時の日か、父の恨みを晴らしてくれ…。


―――悪の根を、絶やしてはならん…ぞ…。



その声を聞く度に俺の憎悪は増していく。



―――忘れるな。自分の運命を。


―――お前は、魔に属する者。人とは相反する存在なのだ。



地球人が祝う誕生日というものは…。俺にとっては復讐を誓う日だった。





あいつに、出会うまでは…。








「…ピッコロさん?」


かけられた声に目を開けると、目の前にいたのは悟飯だった。

一人考えに浸っていたせいか、悟飯がいた事にも気がつかなかったらしい。

途端耳に入ってくる賑やかな声。

普段は3人しかいない静かな聖域も、今日だけは違っていた。




今日は俺が生まれた日。




祭り好きのブルマが俺の誕生日を祝う為にパーティーを開いていた。

それもわざわざ神殿で。

うるさい場所が嫌いな俺は、こうして一人ここにいたのだが。



「肝心の主役がいないーって、ブルマさんが探してましたよ?」

「………別に好き好んでやってくれと言った覚えはない」



僅かぶっきらぼうにそう答えると、クスクスと笑う悟飯。

誕生日など…。復讐を誓ってきた俺には無縁のもの。



「…お父さんがね、前にボクにこう言ってたんですよ」



―――オラ、ピッコロに会わなかったらここまで強くなれなかったかもしれねぇ。



「……………」

「ボクも…。ピッコロさんに会わなかったら、きっとずっと泣き虫のボクだったと思います」


ずっと泣き虫で甘えん坊だった自分。それを変えてくれたのは、紛れもない師匠。


「ピッコロさんがいたから…。ボクもお父さんもここまで強くなれた」




あの時は、考えもしなかった感情。

生まれた日が来る度に聞こえる声に、自分の運命を呪った事もある。


俺など……。生まれて良い存在ではない、と。



「ピッコロさんが生まれてきてくれて…。ピッコロさんに出会えて良かった」



悟飯に出会えなかったら…。今頃の俺はどうなっていただろうか。





―――――お誕生日、おめでとうございます。ピッコロさん。




「なにやってんだピッコロ〜!おめぇの誕生日なんだからおめぇがいねぇと意味ねぇだろ〜」

「そうよ!そんな所にいないでさっさとこっちに来なさいよ!」





「…みんな呼んでますよ。行きましょう、ピッコロさん」

「…………そうだな」




自分が生まれてきた日に聞こえてきた声は、もう何も聞こえない。

自分にとって呪いの日と思ってきた己の誕生日は。


今の俺にとって、かけがえのない日になっていた。





〜 HAPPY BIRTHDAY for PICCOLO 〜

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